庭園に立つ古めかしい建物の中に入ると、銀色に輝くシンクや大きなオーブンなどが並んでいる。レストランの厨房(ちゅうぼう)のような空間だが、大きく違うのは、この至る所にカタツムリの殻が寄り集まっている点だ。まるで、群れになってすみ着いているかのように。
ちょっと奇妙なこの光景は、11月27日までイタリアで開かれているアートの祭典、第59回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展で見ることができる。米ニューヨーク在住の美術家・笹本晃(あき)(41)による、インスタレーション作品だ。世界各国の現役・物故213作家の作品で構成される国際展示のために制作された。
ステンレス製のシンクを使ったテーブルの上を、カタツムリの殻がすーっと泳ぐように移動する。シンクの排水口からの送風が、透明な天板に開いた多数の小さな穴を通して殻に伝わり、浮き上がるからだ。
仕組みはエアホッケーと似ているが、まっすぐ進む時もあれば、うずの巻く向きに沿って回転する時もあり、ほかの殻やシンクの縁とぶつかった殻が次にどの方向へ向かうのか、予想するのは難しい。動き方はなめらかで、殻が生き物のように自発的に動いているようにも見える(ただしスピードは生きたカタツムリとはまるで違う)。
笹本によれば、3歳になる自身の子どもが夢中で、日常に身近な存在になっているカタツムリをモチーフに据えることにしたという。作品の題は「Sink or Float」(シンク・オア・フロート)。英語で直訳すると「沈むか浮くか」だが、「sink」にはもちろんキッチンシンクの意味もかかっている。
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キッチンの至る所にカタツムリ ベネチアに現れた空間、美術家の意図 - 朝日新聞デジタル
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