ロシア料理の香ばしい匂いを漂わせるキッチンカーが、反戦の張り紙を車体に付け、兵庫県淡路島内を巡っている。
メッセージは、ロシア語で「戦争はいらない」を意味する「HET BOЙHE(ニェット・ヴァイニェ)」。ロシアによるウクライナ侵攻の一刻も早い中止を訴える。
キッチンカーは、東京から2018年に移住した太田直也さん(50)と、ロシア人の妻イリーナさん(40)が走らせている。目を疑うばかりの状況に、何かできることはないかと考えた2人。車体の張り紙に加え、メニューに使うウクライナ産の瓶詰めを希望者に販売している。利益の一部をウクライナ大使館に寄付するためという。
ビーフストロガノフの付け合わせ用のピクルスは、少し酸味がある味で、いいアクセントになる。ポテトサラダにも刻んで入れる。ほかにも、パスタなどに絡めるとおいしいマッシュルームのペースト、パンに塗るレモンとショウガのジャムなどがある。
侵攻が始まって数日後に始めた。インスタグラムで告知すると、事情を知った客から「頑張って」「私も力になりたい」と、購入希望や励ます声が来た。
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2人が移住先に淡路島を選んだのは、洲本市五色町が江戸時代の偉人・高田屋嘉兵衛の出身地だったからだ。
商人の嘉兵衛は、幕府とロシア政府が緊張関係に陥ったゴローニン事件(1811年)で、仲介役となって武力衝突を防いだ。旧五色町は、そうした功績を顕彰し、2001年にロシア・サンクトペテルブルク市クロンシュタット区と姉妹都市提携を結んだ。合併して洲本市となってからも、地域ぐるみの交流が続いてきた。
「淡路島は自然が美しく、日露友好の歴史がある。自分たちと通ずるものを感じた」というイリーナさん。長男(11)と次男(1)を育て、季節に合わせて本場仕込みの料理を振る舞う生活を楽しんでいた。
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今年2月末、ウクライナ侵攻の報道にショックを受けた。日本で知り合ったウクライナ人から、現地の人々が倉庫用の地下に布団などを持ち込み、息を潜めて暮らしている様子を伝え聞いた。侵攻で犠牲になった人の写真も届いた。「今はロシア人であることが恥ずかしい。愚かさになぜ気が付かないのか」
自身は、両親と弟、妹がロシアで暮らす。侵攻後も連絡を取り合ったが、母親とは直接話をしなくなった。「母はプーチン大統領の言葉を信じている。言い合いになった。私が何を伝えても届かない」と、引き裂かれる思いを抱える。
ロシア政府は言論統制を強め、日本にいるロシア人も恐れを感じているという。「それでも…」
2人は、品物があるかぎり続ける。「遠く離れた土地にいる私ができる精いっぱいのことを」と。(吉田みなみ)
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